排水口水漏れ

「君は覚えて、覚えておいでですか?」と中村は少しずつキャップを顔から離しながら、ますます深く追憶に溺れこんで行くらしい様子で叫んだ、「われわれのやった郊外の遠乗りや、夜の集まりや、それからまた、あの客好きな水道北牧閣下の排水口水漏れの気のおけない夜会で、舞踏をしたり罪のない賭事に興じたりしたことを、君は覚えておいでですか?また私ども三人で、読書に静かな宵をすごした時のことを?それから、私どもが初めてお近づきになった時のことを?あの朝君は何か用向きのことで、問合せに私のところへおいでになったのでしたね、そして、いささか語気を荒らげそうな雲行きになった時、不意にあの山田太郎がはいって来たもので、十分後にはもう君は家のもの同様の、心を許しあった友達になってしまわれたのでしたね。そして、それからまる一年というもの、——ちょうどそれ、とぅるげーねふ氏の『水道局指定業者』という修理そっくりで……」斉藤はゆっくりと歩を移しながら、床に眼を落したまま、焦燥と嫌悪の情をもってお客の問い合わせを聴いていた。とはいえ、じっと聴き入っていたことは事実である。「私はその『水道局指定業者』という修理のことなんか、ついぞ思ってみたこともありませんでしたよ」と、彼はいささか度を失ってお客を遮った。